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時空を飛び越える芸術ーMaison book girl『Solitude HOTEL 4F』と『Solitude BOX Online』

この記事は、2020年7月4日にはてなブログで公開した記事をなるべくそのままの内容で転載したものです。

Maison book girl『Solitude HOTEL 4F』

♨️ いやー、SH4Fかなりやばかったですね…

👼えーと、Maison book girl(以下ブクガ)の4thワンマン・ライブ、SH4FことSolitudeHOTEL4Fのことですね。アイドルユニットである彼女たちによるライブ公演シリーズの名称で、独自の世界観とまるで演劇のような物語性の強いパフォーマンスで知られています。しかし、4Fといえば2017年12月28日の公演ですが、それをいまさら騒ぎ出すという…

♨️Amazonプライムビデオでたまたま映像化されてるのを見つけまして…

👼で、まんまとハマってしまうと。

♨️もう大感動しました……

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♨️大感動しました……

👼2回言った…

♨️いやなにがやばいって…普通はミュージシャンやアイドルのライブって演者と観客の一体感を楽しむものじゃないですか…ところがSH4Fは丸っきり逆で演出によって観客を置き去りにしているんですよね…はい、これナタリーのライブレポと当日のセットリストです。

https://natalie.mu/music/news/263352

👼うーん、これだけ読んでもなにがなにやらさっぱりわかりませんね。とにかく時間が巻き戻ったり進んだりしていると…

♨️映像を観てもなにがなにやらわからないですよ。まじでまだ観てない人はいますぐにAmazonプライムで観てほしいんですが、とりあえず公演中はずっとスクリーン向かって左上の目立つ位置に日付と時刻が表示され続けているんですよね。ナタリーのライブレポにあるようにこの表示が操作されることで「未来、過去、現在を巡」るような構成になっています。

で、これってなんかすごいイメージが湧くものがありません?

👼うーん…ビデオカメラの……

♨️こうゆうやつですよね。

なんか録画したビデオ映像の再生って感じなんですよね。

👼え、でも実際にブクガは「今」舞台上で踊っていたわけで…

♨️いやまあそうなんだけど、少なくとも公演中にMaison book girlと観客は同じ時間をほとんど共有できていないですよね。舞台上で起こる時間の変化に観客はほとんどついていけないような演出になっています。

👼舞台上と観客の間に「時間のズレ」が起こされていたということですね。

Robinson Jeffers『TO AN OLD SQUARE PIANO』と『レキュトスの壺絵』

♨️ そう、僕はそこがすごく重要だと考えていて…そのことを説明するために、ここで造形作家・批評家の岡﨑乾二郎の文章を引用したいと思います。時間があったらまずはこちらを全文読んでみてください。

聴こえない旋律を聴く|聴こえない旋律を聴く|岡﨑 乾二郎|webちくま

👼よ、読みました…

♨️この文章のなかで、岡崎は『レキュトスの壺絵』『少女像』などを例にあげながら「現実において不在=ネガティブの場所、その場所を経験させることこそが芸術作品のもつ力であり可能性である。」と指摘していますね。

👼ふむ。

♨️『レキュトスの壺絵』について述べている文をもう少し引用します。

同じ時間と空間にあるものしか人は見ることができないし聴くことができない。  だから二人は別の世界に隔てられている。ネガティブ・ケイパビリティとはこの《できない》という否定性を受け入れる能力である。それを受け入れたとき《たましい》は直接的な感覚(そして、それが位置する特定の場)から離れた音楽=旋律を奏でることができ、共振させることができる。

♨️やばいでしょ?どうよこれ…

👼なるほどね。これをSH4Fに置き換えて考えると、演者側と観客側のそれぞれに流れる時間の断絶、同じ時を共有《できない》という否定性こそがあの公演を特別なものにしている、と。

♨️で、SH4Fでは、終演後にRobinson Jeffersの『TO AN OLD SQUARE PIANO』という詩篇が配られたそうですが、これがまた『レキュトスの壺絵』を彷彿とさせる文章なんですよね。

Solitude HOTEL 4th Floor-1|KG0401|note

↑の記事で翻訳がされていたので転載させて頂きます。

hose fingers wore your ivory keys
あなたの白鍵は、誰かの指ですり減っている
So thin–as tempest and tide-flow
嵐のような、潮の満ち引きのような
Some pearly shell, the castaway
真珠の貝殻は廃棄され
Of indefatigable seas
疲れを知らない大海に
On a low shingle far away–
とてもとても遠い場所

You will not tell, we cannot know.
あなたは、教えてくれない。
(だから)私達は知らない。

Only, we know that you are come,
ただ、私達が知っていることは、
あなたがここに来たこと
Full of strange ghosts melodious
すべての奇妙な見えないメロディー
The old years forget the echoes of,
古い年月は、反響を忘れ、
From the ancient house into our home;
古(いにしえ)の家屋から、私達の家に
And you will sing of old-world love,
あなたは、古い世界の愛を奏でる
And of ours too, and live with us.
私達の愛も奏で、私達と暮らす

Sweet sounds will feed you here: our woods
甘美な音色があなたを私達の森へ導き
Are vocal with the seawind’s breath;
歌声は潮風の呼吸
Nor want they wing-borne choristers,
翼を持った聖歌隊でもなく、
Nor the ocean’s organ-interludes.
大洋のオルガンによる間奏曲でもない
–Be true beneath her hands, even hers
彼女の、彼女の腕により、発揮される
Who is more to me than life or death.
生命よりも大切な彼女

👼素晴らしい詩ですね…

♨️「TO AN OLD SQUARE PIANO」、要するに中古のピアノのことですよね。すり減った白鍵をみて、過去に奏でられた音色に想いを馳せているわけです。

👼流れる時間は違えどピアノを通して人々が通じ合っているわけですね。

♨️SH4Fでは、最後にブクガのデビューライブが行われた2014年11月24日まで時間が遡りました。ファンにとっては大事な思い出でありすでに失われた時間=不在の場所をブクガの身体とパフォーマンスでもってして再現してみせたわけです。

👼SH4Fこそがまさに「TO AN OLD SQUARE PIANO」だったというわけですね。

♨️そう。そして、ここに「媒体としてのSH4F」という視点が見えてくるはずです。

👼ふむ。

♨️その点で参考になりそうなのがこちらの記事なのですが..

変化しゆくメディウム越しの存在。 中村史子評濱口竜介監督作品『天国はまだ遠い』
bijutsutecho.com

👼へえ、濱口竜介の『天国はまだ遠い』について、(『リング』を補助線にしながら)メディウム(medium/映像媒体/霊媒)の物語として読み解いているんですね。なるほど、ここではカメラを通した媒介に焦点が当てられているのですね。

♨️『リング』はいうまでもないですが、『天国はまだ遠い』も幽霊の話なんですよね。SH4Fも全体を通してホラー的な演出が目を引きますが、「不在を顕す」ための手段として使われている面が大きいと思います。ちなみにこの記事は締めの文章もいいんですよね。以下に引用します。

濱口が本作を公開した2020年の1ヶ月間、人間が物理的に集い直に交流しづらい状況が続いている。多くの人が、パソコン、スマートフォン等のモニター越しに自宅の外部を眺め、人と交流するしかない。そして、モニター越しでは、三月にとっての雨と同じく、見たり聞いたりすることはできても、匂いや触感はとらえられない。また、オンライン配信された動画は、あの劇場で見た映画と同一なのか、あるいは全く別物なのか。そのような状況下で無料配信された『天国はまだ遠い』は、物理的には同じ場所にいない一人、一人、やりきれなさとともに温かな情感を伝えたものと想像している。

♨️はい。ということで、話はコロナ禍に包まれる現在まで飛びます。

👼いや急すぎる。

コロナ禍によるライブハウス・クラブへの自粛要請とライブストリーミングへの流れ

♨️めちゃくちゃ先の未来の人が読んでくれている可能性も考えて一応説明しますと(それ以外の人は読み飛ばしていいです)、この記事の公開日は2020年7月7日なんですが、今年の2月ごろから新型コロナウイルス感染症(SARS-CoV-2)が世界規模で流行しておりまして。日本での状況については、中日新聞を参考にするとまず2020年1月5日に「中国湖北省武漢市で原因不明のウイルス性肺炎が広がっており、」という内容の記事が掲載されるところから始まり、1月28日には感染症法上の「指定感染症」に指定、その後も感染者は増え続け、4月7日には改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づく緊急事態宣言が発令されました。

👼そして、2月26日には政府から多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等については、大規模な感染リスクがあることを勘案し、今後2週間は、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請することといたします。」という要請が出されましたよね。

♨️要請を受けて、その夜に開催予定だったEXILE(京セラドーム大阪)やPerfume(東京ドーム)のコンサートは急遽中止になり、その日を境に全国のライブハウス・クラブのイベントが軒並み開催中止・延期に追い込まれることになりました。

👼そんな中で、まず突出した取り組みとしてあげられるのが3月1日におこなわれたBAD HOPの横浜アリーナでの無観客ライブですね。

BAD HOP、無観客の横浜アリーナから世界に届けた希望「俺たちは止まらねえ」
natalie.mu

♨️あれやばかったっすよね。本来なら会場に観客を入れてやるはずだった本番と同様のステージセットをそのまま使い、結果として1億円以上の負債を抱えながらも無料でライブストリーミングしてしまうという…

👼これを皮切りにその後も続々とライブストリーミングによるイベントが増えていきましたよね。

♨️思いつく範囲で軽く例をあげると「ceroの電子チケット制ライブ配信」「Rainbow Disco Club 2020」「Music Unity 2020」等々、現場に足を運ぶことができない代わりにライブ配信でのイベントが多く行われました。

👼「ライブハウス・クラブの自粛→ライブストリーミングへ」という流れですね。

DOMMUNEから学ぶライブストリーミングの魅力

♨️そして、日本でライブストリーミングといえばやっぱりDOMMUNEですよね。

DOMMUNEとは? | DOMMUNE (ドミューン)

👼えー、「アーティストの宇川直宏が2010年3月1日にDIYで開局した、日本初のライブストリーミングスタジオ兼チャンネル」ですか。なるほど、ずいぶん早くからやってるんですね。

♨️ まあひとことでいえば「先駆者」ですよね。そんな宇川直宏が、日本のロックバンドGEZAN主催のレーベル「十三月」によるコロナ禍でのドキュメンタリー映像『#WISH2』においてインタビューに答えています。冒頭から5:30秒ぐらいまでなので見てみてください。

WiSH(2)ドキュメンタリー
youtu.be

♨️発言の一部を引用します。

「サイバースペース横丁でフロアをもってるイメージだったの。3つのレイヤーがあって。そこ(1つめのレイヤーであるフィジカルな現場)を、障子に穴を開けて覗いているそれぞれの視聴者の視聴覚環境が2つめの現場ですよね。3つめの現場がタイムラインで、それぞれの視聴覚環境の人たちの意識がひとつの時間軸に沿って流れていってる」

覗き見てた側が覗かれる側に変わっていくみたいな。そういった双方向のコミュニケーション・ネットワークの中で見る見られる関係っていうものが反転していく、そんな複雑なレイヤー構造を意識しないといけないと思うんですよ」

👼うーむなるほど。ライブストリーミングには、「フィジカルな現場」「それを覗き見る視聴覚環境」「それぞれの意識がひとつの時間軸に沿って流れるタイムライン」の3つのレイヤーがあるんだと。

♨️ちなみにDOMMUNEにおけるタイムラインってのは主にTwitter上で繰り広げられていて、「#DOMMUNE」は時々トレンド1位になったりするほど盛り上がったりもするんですよね。

👼でも、コロナ禍においては「距離をとる(ソーシャルディスタンス)」ことが最優先で要求されている結果、ライブハウスやクラブなどの〈フィジカルな現場〉というものは実質的には失われていますよね。

♨️それはその通りで、だから〈フィジカルな現場〉を抜きにしたライブストリーミングって基本的にいわゆる無観客配信なんですよね。インタビュー中にもあるように「ポスパン以降のリアリティってじゃあはたして何?」という点をこれから考えていかなくてはいけないんですね。

〈フィジカルな現場〉が失われた現在地におけるMaison book girlの回答、『Solitude BOX Online』

♨️ では、いよいよブクガの話に戻ろうと思うのですが…

👼長い前置きでしたね。どうぞ。

♨️ さて、コロナ禍の影響は当然ブクガの身にも襲いかかりました。6月24日にこれまでの集大成となるベストアルバム『Fiction』 をリリースしたばかりの彼女たちですが、それを受けての全国ツアーは全て延期。振替公演の日程も今のところは目処が立っていません。

【お知らせ】
Maison book girl BEST ALBUM「Fiction」TOUR
公演 延期、及び払い戻しに関するお知らせ。

楽しみにして頂いていた皆様申し訳ございません。

詳細は画像及び、HPにてご確認下さい。https://t.co/cbUPuOdW7n #ブクガ pic.twitter.com/SK10CBvHzR

— Maison book girl (@maisonbookgirl) 2020年6月19日

※当時のツイッターの投稿内容を再現したもの。

👼悲しい……

♨️そして、そうした状況を踏まえて開催されたのが、ブクガ史上初の無観客配信ライヴ『Solitude BOX Online』です。

【本日開催】
本日20時開催
Maison book girl無観客配信LIVE「Solitude BOX Online」

歪、空虚。異空間への没入体験。ようこそ、メゾンブックガール。
チケット販売中https://t.co/DcN5ViHsdX#ブクガ pic.twitter.com/kRJE0dfa8Y
— Maison book girl (@maisonbookgirl) 2020年6月24日

※当時のツイッターの投稿内容を再現したもの。

👼おお〜!

♨️ぼくもこのライブはリアルタイムで体験したのですが、これがもう…大感動しましたね……

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♨️大感動しました……

👼2回言った…

♨️いや〜まじで素晴らしかったですね。これに関しては現時点で観る方法はないので、せめてこちらの優れたライブレポと当日のセットリストを見てください。

Maison book girl『Solitude BOX Online』が見せた配信ライブの可能性|muradan|note

2020/06/24
Solitude BOX Online
bath room(SolitudeHotel∞F)
1.悲しみの子供たち
2.狭い物語
3. レインコートと首の無い鳥
4. レインコートと首の無い鳥
5. レインコートと首の無い鳥
6. レインコートと首の無い鳥
7. river
8. water
9. 長い夜が明けて
10. 闇色の朝_
11. Fiction#オンラインブクガ

— ブクガ セトリ (@Mbg_setlist) 2020年6月24日

👼あの、同じ曲が4回も続いてるのですが…

♨️とんでもないですよね。もちろんリアルタイムでそれを見ていたぼくらも大盛り上がりでした。そうそう、このライブストリーミングはDOMMUNEと同じくTwitter上で「#ブクガオンライン」のハッシュタグをつけて視聴者同士で盛り上がっていたのですが、『レインコートと首の無い鳥』が繰り返される様子を見ていたときのみんなの反応がこちらです。

👼本当だ大盛り上がりだ……

♨️重要なのは、こうしたホラー的な演出によって、視聴者がライブ映像から目を離せなくさせたということなんですよね。

👼障子に穴を開けて覗いている視聴者を覗きに夢中にさせたと。

♨️そして、このライブの盛り上がりのピークが、3回めの『レインコートと首の無い鳥』のパフォーマンスでした。そのときの様子を先ほど載せたライブレポから引用します。

2回目の「レインコートと首の無い鳥」が終わりかけたその瞬間、我々はその事実を鮮烈に突きつけられることとなる──井上唯が突然踊りをやめ、ゆっくりと手を挙げ”こちら”を指さしたのである。つられて他の3人も次々と”こちら”に目を向ける。ステージの斜め後方、メンバーを見上げる角度で設置されたやや解像度の荒いカメラ。その存在を認識した矢川がゆっくりとソレに近づき、手で監視者の視線を覆い隠し、暗転。三度「レインコートと首の無い鳥」が流れ出したとき、我々はステージの上、踊る4人のただ中に”立っていた”。今度はカメラのこちら側の存在をハッキリと認識した表情で、次々とソレを受け渡しながら歌い踊る4人のメンバー。遠景の別カメラに切り替わって手元に写ったソレの正体を、我々は本当は初めから知っていたはずだ。ライブが始まったときから自分の手の中にあり、スクロールして招待文を読み、ステージ上のパフォーマンスを見つめるために使っていた道具──スマートフォン。

👼井上唯が突然踊りをやめ、ゆっくりと手を挙げ”こちら”を指さした…!

♨️やばいでしょ?つまり、(一方的に覗いてる側であるはずの)視聴者に対して、(覗かれる側であるはずの)演者が指を差して画面越しに覗いてくるという、いうなれば覗き見てた側が覗かれる側に変わるという逆転現象がここで起こったんですよ。ちなみにそのときのタイムラインの様子がこちらです。

👼めっちゃこわがられてますやん。

♨️それだけ盛り上がったってことなんです!

♨️で、思い起こせば、ストリーミングの数日前にブクガメンバーのコショージメグミがかなり示唆的なことはツイートしてたんですよね。

ライブ見にきてくださいじゃなくて、そっちに行ってみます、絶対見てて https://t.co/7Rjj0WkZoI

— コショージメグミ(仮称) (@COSHOTaaaaN) 2020年6月19日

※当時のツイッターの投稿内容を再現したもの。

👼若干『リング』の貞子が思い浮かぶようなツイートでもありますね。ここでの「そっち」っていうのは、つまり「視聴者の視聴覚環境」のことですよね。つまり、ぼくらの部屋こそが第2の現場(=ライブ会場)だったんだと。まさに〈フィジカルな現場〉が不在である今だからこその配信でしたよね。

♨️その通りです。このコロナ禍において、ぼくらは〈フィジカルな現場〉を失いながら、それでもなお、画面越しにお互いを覗き合い、そしてTwitterのタイムラインで盛り上がりました。そこには確かに間違いなくブクガのライブ現場が立ち上がっていたように思うのです。  

👼なるほど…これはいい感じにまとまりましたかね…

♨️では、最後は岡崎乾二郎の文章を再度引用してお別れをしたいと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました。

👼♨️さようなら……次回も素敵な湯けむりを……

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「現実において不在=ネガティブの場所、その場所を経験させることこそが芸術作品のもつ力であり可能性である。」

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